ライ麦粉 Roggenmehl
ライ麦パンを作ったことのある方は、経験でお分かりと思いますが、 ライ麦生地って、伸びがなくてベチャっと湿っていますよね。 伸縮性に富んだ小麦生地とは、大きく違います。
これらの違いは、膨らみと弾力性に重要なグルテンと関係が深いのですが、 このグルテンが、ライ麦生地ではほとんど形成されないのです。
ライ麦粉には、ペントザンという繊維質の一種が小麦粉に比べて3.5倍近くも多く含まれています。 ペントザンは、とても強い吸水力を持っており、焼きあがったライ麦パンのしっとりした舌触りや、 長期保存を可能にしているのは、このペントザンです。
ただ、この強い吸水力によって粉と結び付く水分がすっかり取られてしまって、 ライ麦粉中のグルテン形成を妨げてしまうんです。
小麦粉にペントザンを加えると、小麦生地のグルテン形成も難しくなります。
ライ麦パン作りが難しいと言われる最初の理由は、形成されるグルテンが足りないということです。
そして、もう一つ重要な問題、それはライ麦中の酵素の働きです。生地の中にはいろんな酵素が存在するのですが、ここで重要なのは澱粉を 糖に分解するアミラーゼです。
小麦でもライ麦でも、成分の約70%近くは澱粉からできています。 カスタードクリームや、とろみ付けの水溶き片栗粉を想像してもらうと分かると思いますが、 澱粉というのは、熱を加えると糊状に固まりますよね。 パン生地も同じように、焼く過程で澱粉が糊状になって固まって身の部分ができているのです。
ライ麦澱粉が固まる温度は55℃~70℃、小麦粉澱粉は65℃~80℃です。
そして、澱粉分解酵素アミラーゼの活動に適した温度は、60℃~70℃。
アミラーゼは特に、凝固した後の澱粉を分解するのを得意としますので、凝固温度の低いライ麦澱粉は、 とてもたやすく糖に分解されてしまうことになります。
澱粉が分解されてしまうと、どういうことが起こるでしょうか?
極端に言うと、澱粉と水を加熱してモチモチした状態の物を作るつもりが、砂糖水ができてしまったことになります。 オーブンの中のライ麦生地も同じで、水分を保てなくて生焼けの状態になってしまうのです。これで、ライ麦粉では小麦粉と同じようにはパンは焼けないという ことが分かりました。
ザワータイク Sauerteig
ドイツでは、ライ麦パン作りにザワータイクをを使用します。
ライ麦と水を混ぜておくと、粉についていた酵母、空気に飛んでいた酵母が発酵を始めます。
そのうちに、乳酸菌が発生して、澱粉を発酵させ始めます。
これに、水と粉を継ぎ足して行ってやると、乳酸菌が他の菌を抑えてくれますので、
最終的に自然酵母と乳酸菌の入った酸味のあって発酵力のあるザワータイクができあがります。
アミラーゼ(酵素)の活動は、ザワータイクの酸によって抑制されますので、 ライ麦澱粉がきちんと水を取りこんで凝固することができます。
つまり、ライ麦でも問題なくパンが焼けるようになります。 また、ザワータイクを加えて作ったライ麦パンは、弾力性が強まり、耐久性(きれいに切れるなど)も高まります。
ところで、アミラーゼの活動を抑える酸味というのは、極端な話、レモン汁やお酢でも良いんです。 でもなぜ、ザワータイクを使うのかというと、やはり味のためです。 時間をかけて出来あがったザワータイクの中には、酵母と乳酸菌が作り出した沢山のアロマ成分や味わいが 含まれていて、こういうものはとても複雑なので、短時間で簡単には作り出すことができないんです。
ザワータイクの入手方法
- ザワータイクを使ってパ ンを焼いているパン屋さんから分けても らう。(小瓶など入れ物は持参すること)
- Reformhausま たはBIOのお店でザワータイクを購入する。
こちらが、市販されているHensel社のザワータイク(150g 200円強)
そのままパン生地に使えますし、ライ麦と水を足して繋いでいくこともできます。開封しなければ20℃以下の常温で1年半以上もちます。
いずれも、ドイツ語圏にお住まいでない場合は難しい方法だと思いますので、次項で は自分でザワータイクを起こす方法をご説明します。